染・井隼慶人 陶・片山雅美 二人展 7月11日(金)~17(木)

7月11日(木)から染の井隼慶人さんと陶の片山雅美さんによる二人展が開催されています。
今回初めて出展いただいた井隼慶人さんは京都市出身。京都市立美術大学(現・芸術大学)染織専攻科を修了後、京展,日展,日本新工芸展等に出品を重ね,京展市長賞,京展賞,日展特選,日本新工芸展内閣総理大臣賞などを受賞し活躍されています。また、制作活動だけでなく京都市立芸術大学美術学部工芸科染織専攻の教授として後進の指導にあたり、染色界を長く支えてこられました。
蝋染とは布に溶かした蝋で模様を描き、その部分を染料で染まらないようにする防染技法です。染色の後、蝋を落とすと、蝋で覆われていた部分が模様として現れる、という仕組み。蝋のひび割れや厚みの違い、かすれなどが独特の風合いを生み出し、手描きの温かみや自由な表現が魅力となることでよく知られている技法です。その歴史は古く、日本では奈良時代から行われていると考えられており、正倉院御物にも作品が残されています。
井隼さんの作品はリズミカルかつ大胆な構図や鮮やかな色遣いに圧倒されます。対象を深く見つめ、その魅力を最大限に表現しようと、伝統的な蝋染めの技法に独自のアレンジを加えて生み出された表現であることが感じられます。


片山雅美さんは玄想庵がギャラリーとしてオープンした2023年の10月に個展を開催していただき、今回2度目となります。蝋染めの井隼さんとのコラボレーションであり、夏座敷ということもあり、前回とはまた違った雰囲気での展示をお楽しみいただけます。

片山さんも京都生まれです。 京都市工業試験場で基礎を学び、その後7年間住み込み内弟子修行、1977年独立。近年は木炭と匣を使い炭化焼成で焼き上げた赤陶・赤織部の作品をたくさん発表しておられます。
織部焼とは桃山時代の大名茶人・古田織部が生み出した焼き物で、よく知られている色みは緑色ですが、白織部、黒織部、赤織部というように色みの違ういくつかの種類が存在します。
片山さんは、最初の師・叶光夫氏のもとで初めて「赤陶」作品を手掛け、その美しさに魅せられたことをきっかけに、理想の「赤」を求めて数々の赤陶、赤織部の作品の制作に邁進されてきました。
赤織部は織部釉・炭素・温度の条件が揃うことで初めて美しい艶消しの温もりある赤色に焼き上がります。赤色は釉薬に含まれる銅の成分を酸素不足の状態にする炭化焼成という焼き方をすることで発色するのですが、炭化焼成は不安定で常に美しい赤に焼き上げるのは至難の技。片山さんは試行錯誤を重ねて制作してきました。その探究の中で赤色に焼けた作品を、もう一度炭化焼成すると、緑織部が焼き上がることを知ります。そしてさらに何度か炭化焼成を繰り返すことで赤と緑の色に窯変した、輝くような赤色である耀赤織部(ようあかおりべ)の表現に辿り着きました。
試行錯誤の末に生み出された多種多様な赤。色みだけでなく、もちろん形にもたくさんの工夫とこだわりがつめられています。今回玄想庵の庭に展示されている作品はまるで生き物のよう。話し声が聞こえてきそうです。

長く作品制作に真摯に向き合い、弛まぬ努力で技術と感性を育んでこられたお二人による作品たち。祇園祭のお囃子を聴きながらぜひご高覧ください。